~vol.12~
電車が止まっては、またのんびりと走り出し、また止まっては…をくりかえします。
動き出すたびにからだが大きく揺れるものだから、眠れません。
9月16日。わたしは小山市に住んでいますが、新白岡校から自宅へ帰るのに、3時間かかりました。
大雨の日です。
小山駅のタクシー乗り場は、今まで見たことないくらいの人が並んでいて、わたしはくるぶしまである水の中を歩きだしました。ぐにゅぐにゅとスニーカーが音を立てます。とっくに骨が折れて使い物にならなくなった傘を片手に、顔面に雨しぶきを受けながら一歩一歩前に進みます。駅から20分かけて自宅前までたどり着きました。
…家の前にある踏切が開きません。
大雨のため、複数の電車が止まっているからです。
カーンカーンカーンカーンという冴えたくりかえしの音を聞きながら、ぼんやりと今日の授業を振り返っていました。
…国語、教えたなぁ…
…パズル道場、教えたなぁ…、いや教えてない…、ただ見てただけ…
…黙々と、ただひたすら目の前の問題に取り組み続けるあのクラスって、塾の中でも特殊だよなぁ…
パズル道場は「ルール」しか教えません。
できない問題があっても、ヒントすら出しません。だから、誰にも助けを求めることはできず、ときには半年、それ以上同じ問題を考え続ける子もいます。「できない」ということをつきつけられながら、それに挑戦し続けるエネルギーは並大抵のものではありません。
考え続ける時間は、本来楽しいものです。
ただ、「考える」時間を与えられず、すぐ「答え」を与えられてしまうという日常に慣れ、答えが与えられないこと、すぐにたどり着かないことにストレスを感じてしまう子どもが多いのも確かです。
その「苦しい」時間は実は「楽しい」時間だと分かってもらうため、親御さんの協力が必要な場合が多くあります。
どうか温かく見守って差し上げてください。
パズル道場はすぐに目に見える結果が表れるものではありませんが、ねばり強さ、がまん強さ、あきらめない力を養うには、これ以上のプログラムはないと自負しています
ぼーっとしていたせいか、警報機の音がゥワーンゥワーンゥワーンとくぐもって聞こえ始めたころ、ピタッと音がやんで、遮断機が上がりました。
やっと家にたどり着ける。
そのとき、ふと、こんなピンチのときに穏やかな人、そしてさまざまな作戦が考えられる人こそが素敵な人間なのかもしれないと思いました。
ちなみにわたしはまったくかよわくないので、傘なしでカゼひとつひきませんでした。
こんなとき通常の勉強は何の役にも立ちません。
ほんとうの危機に出会ったとき、パズル道場で養ったことは彼らを救うかもしれない。
ひたむきに目の前のことに取り組み続けている子どもたちを見ていて、大げさではなく、本当にそう思うんですよ。